そこは闘技場だった。古代ローマの闘技場を彷彿させる石畳の上では、二人の男が死に物狂いの闘いを繰り広げていた。
 
 それぞれに拳を繰り出し、相手の肉体にダメージを打ち込む。おびただしい血飛沫が舞い上がるが、それでも倒れはしない。痛みを怒りに変えて、再び拳を繰り出す。

 そこにあるのは恐怖、突き進むしかない男達の、悲しみにも似た怒りだ。

 だがそこに、観客の姿はない。闘技場の周りは殺伐としたガラス張りの空間となっていて、天井に吊るされた大型モニターが、四方に向けられ試合の情況を映している。

 観客達は、その姿が他人にばれないよう、鏡張りの個室から観戦しているのだ。