それでも俺は必死にへらへら笑って見せる。


「じゃあ聴いてみる。
けど余裕だな、竹内は。
受験生だろ?」

少し皮肉っぽかっただろうか。
焦ってCDのジャケットから、俺の席の隣に立っていた香波に視線を移した。


しかし数十cm上げた視線の先に、香波の顔は無かった。



少し視線を下げて探すと、香波のそれとはっきりぶつかった。


香波は膝を曲げ、俺の机に手をついて俺の目線の少し下にいたのだ。


これまでで一番、香波との距離が近いかもしれない。

自然と心臓の音は、大きく強くなった。



香波は机の上の手の甲に顎を載せ、少し考えてからつぶやいた。

「良いじゃん。息抜き。
それに…嬉しいんだもん。」


見下ろした香波の髪の間から出た小さな耳が、赤く染まった。