車に乗り込み、体についた雨粒を少し払っていると、



「何か俺ら、携帯の番号交換してる意味ねぇよな。」


マサキは運転席で苦笑いした。


カオルちゃんと会ったあの日以来、いつも思い出すように突然に疼き出す、手首の古傷。


顔を歪めると、呼吸さえもままならない。



「って、聞いてんのかよ。」


「…えっ、あっ…」


冷や汗が、つと背筋を伝った。


どうしていつも、全然関係のないマサキといる時に、過去のことばかり脳裏をよぎるのか。



「ごめん、ちょっと寒くて。」


「ったく、そんな薄着してっからだろ。」


彼はあたしの顔を覗き込んでから、困ったように口元を緩めた。


ふわりと香った、どこか甘さの混じる香水の香り。



「なぁ、家行って良い?」


目が合うと、いつも逸らせなくなってしまう。


頷くあたしを見て、マサキはくすりと笑みを零してから、そっと唇を触れさせた。


雨の世界に遮断された、狭い車内。


目の前にいるこの人が、今この瞬間、あたしの存在を認めてくれるなら、それで良い。


愛してほしい、なんて欲張りは言わないから。