数センチの距離にあるそれに手を伸ばすことは、ひどく容易い。


けど、でも、迷いに指の先が止まった。


レンはそんなあたしを確認し、舌打ち混じりに肩をすくめてから、



「憎しみと復讐心って、イコールにしたらダメなんだよ。」


そう、秋空を仰ぐ。



「俺、思ったんだけどさ。
ユズルくんは、きっと誰も恨んでねぇんだろうな、って。」


「………」


「むしろ死んだのが自分で良かったって思うような兄ちゃんだし、間違っても復讐してほしいなんて望んでねぇ。」


彼の言わんとしていることがわからず首をかしげると、



「んだから、えっと、つまりは今のルカを見たらユズルくんはきっと、自分にしか出来ないことを考えろ、って言うと思うんだ。」


「…自分にしか、出来ないこと?」


「それが例え、アイツの息子である氷室正輝のことだったとしても、きっとユズルくんはルカの背中を押すと思う。」


「………」


「止めてやれよ、って言うタイプだしさ。」


レンは墓石をさすりながら、少し困ったようにそう笑った。



「それに俺だって、あの野郎に死なれたら寝覚めが悪ぃし。」


「………」


「何よりルカはもうこれ以上、大事なもんを失ったらダメだ。」


彼がこちらに真っ直ぐ突き出した握り拳の中にある、マサキの居場所が書かれた紙切れ。


何故だかあたしは、涙が溢れて止まらない。


それでも受け取れずにいると、レンはあたしの手にそれを握らせてくれた。