やはり何かあるのだろう。


彼は取り出した煙草の一本を咥え、火をつけてから、感慨深げに煙を吐き出した。



「実は今度、転勤することになってね。」


「…え?」


「それでだ、キミも一緒に来ないか?」


仰天するような問いだった。


三坂さんは事もなさげに宙を仰ぎながら、



「別に愛人になれとか向こうで一緒に暮らそうということじゃないんだ。」


「………」


「ただ、いつもキミは窮屈な世界に閉じ込められているような瞳をしていたから。
だからいっそのこと、一緒にこの街を出るのも面白いんじゃないかな、と思ったんだ。」


もちろんある程度の生活の保障はしてやれるから、心配はするな。


そう付け加え、彼はあたしへと視線を戻した。



「ルカちゃんはもっと羽根を伸ばして生活出来る場所の方が似合ってる。」


「………」


「何もこんな吐き溜めみたいなところで無理をして生きることなんてないんだから。」


あたしはこの先の未来を、どんな風にしたいのだろう。


誰と、どうやって生きていきたいのだろう。


三坂さんはさらに背中を押すように、



「捨ててしまえるものまで無理に背負う必要なんてないだろう?」