「ルカさん、本当にすごいですよね。」


笑顔の彼女が横から声を掛けてきた。


何がすごいのかはわからないけれど、でもありがとう、とあたしは返す。



「あの不動産王の北浜社長までお客に持ってるんだから。」


「………」


「ルカさん目当てのお客様はいつも絶えないし、もう神って感じ!」


神だなんて、何の冗談なのか。


嬉々として頬を紅潮させる彼女に愛想笑いだけを返すものの、こめかみには痛みが走る。


第一、別に友達を作るためにこんなところで働いてるわけじゃないし、他のキャストと慣れ合おうとは思わない。


手に持っている分厚い紙切れだけが、あたしの価値だ。



「神様なんて、この世にいるわけがないじゃない。」


「……え?」


「人間が、災いを詰めたパンドラの箱を開けた瞬間から、神様なんてものは消滅しちゃったのよ、きっと。」


欲にまみれたこんな場所に一番ふさわしいのは、神様なんかじゃなく、悪魔だろうに。


綺麗なものは、全てがまやかし。


けれどあたしの言葉に、馬鹿な彼女は首を傾ける。



「ルカさんって、難しいこと知ってるんですね。」


「知りたくないことの方が多いんだろうけど。」


脳裏をよぎるのは、過去の走馬灯。


あたしはため息混じりにそれを振り払い、じゃあね、なんて席を立った。