「そういえばさ、覚えてるか?」


ふと、彼は窓の外へと視線を滑らせてから、



「昔よく、ふたりで単車ぶっ飛ばして海まで行ったよな。」


「そうだね。」


「風になろうなんて馬鹿みたいなこと言って、制限速度も守らずにさ。」


そう、それはまだ幼かった頃のこと。


16歳になってバイクの免許を取ったレンと共に、よく遊び回っていたんだっけ。


仲間内で夜な夜な集まっては騒いでいた、帰らぬ日々。


無邪気に公園を駆ける子供たちを見つめた。



「またふたりで行きてぇな、あの頃みたいに。」


「夏になったら、美雪も誘えば良いよ。」


なのにレンは悲しそうな顔のまま、



「そうだな。」


とだけ、呟いた。


限りなく透明に近い幸せなんてものは、この世にはないのだと思う。


それが表れているような、彼の表情。



「なぁ、宮城の意識はいつか戻るのかな。」


「………」


「そしたらアイツは、俺を許してくれるのかな。」


絶対に大丈夫だなんて、嘘でも言えなくてごめんね。


レンの吐き出した煙が揺れていた。