タクシーで何とかマンションまで帰り、エレベーターを降りた時だった。


ドアの前にいた彼の姿に驚かずにはいられない。



「…マサキが、何で?」


と、呟いた後で、そういえばメールを送ったかもしれない、と今更思った。


マサキは心配そうにあたしの顔を覗き込む。



「何回も電話したけどお前は出ねぇし、どうしようかと思って来てみたんだけど。」


「………」


「…大丈夫、じゃねぇよな?」


お母さんが死にました、とだけ送った後で、それからは携帯の存在なんてすっかり忘れていた。


けれど、ここ数日間の出来事の数々を思い出しては、大丈夫だよ、とさえ言えなかった。


マサキの顔を見た瞬間に力が抜け、足元から崩れそうになる。


ひどい眩暈だった。



「ルカ!」


支えられる形で何とか部屋に入ったけれど、自分の不甲斐なさに涙が溢れる。


恋しかった、寂しかった、でももうひとりになってしまった。


お父さんやカオルちゃんの前では強がっていただけで、本当は、まだ現実を受け入れる勇気さえないあたし。


その胸の中で子供みたいに声を上げて泣くあたしを、彼はただ何も言わずに抱き締めてくれる。


けれどその腕のあたたかさの分だけ、もう求めることさえ出来ないぬくもりに悲しくさせられた。