マサキは文句を言いながらも、渋々うちまで送ってくれた。


けれどもあたしは、作り笑顔だけで精一杯だ。


ふらふらとした足取りのままにひとり部屋に戻り、コップに溜めた水を一気に流し込む。


携帯はチカチカとメール受信のランプを点滅させていた。



「…氷室って、そんな…」


氷室――お兄ちゃんを殺した犯人と同じ名字。


確かにこの辺りでは数も少なく、単なる偶然だとも言い難いけれど。


それでも信じたくなんてなかった。


マサキは憎むべきあの男の息子なのだろうか。


だとするならば、どんなに想おうとも、もう一緒にはいられない。



「…ゆず兄っ…」


チェストから取り出した、あの頃の写真。


その中で、まだ幼いあたしとレンとお兄ちゃんが、この後に待ち受けている運命さえも知らずに笑っていた。


本当は今すぐにでもマサキのことを調べるべきなのかもしれない。


けれど、もしも知りたくもない真実に辿り着いてしまったならば――。


考えるだけで身がすくむ。



「…ゆず兄、あたしどうしたらっ…」


だけども写真の中の彼は、ただほほ笑むだけだった。


マサキはマサキだし、例えどんな過去があろうとも、関係なんてないと思っていたはずなのに。


あたしはその場に崩れ落ちた。