広い庭に立つ大きな桜の木。肌寒くなった今の季節では当たり前だが、桃色はすべて散っており、それはただの枯れ木にしか見えなくなっていた。

縁側に腰かけ、その大木をぼーっと見つめる私。



お気に入りの淡い紅色の着物も髪飾りも、今日の私には重たく私を縛り付ける鎖にしか感じられない。


と。
背後の襖が静かに開き、くすりとやけに耳につく笑い声が鮮明に響いた。



「どうして入って来ないんだい?」


低く少し掠れたような声なのに、逆にそこが色っぽく耳に届く。私は眉を寄せ怪訝な顔をその声の主へゆっくりと向け振り返る。

貴方が嫌いだからです、と。睨む私に返ってきたのは怖いほど妖艶で、恐れを感じるほど綺麗な微笑。



「それは悲しいね。俺は君をこんなにも思っているのに…ねえ、彩耶。」

「…宙さんなんて、嫌いです。」

「それでも結構。早く入りなさい、まだ君には教えることが山ほどある。」