Poison【短編】




女性は、足下の書類を拾い上げ僕に差し出す。ペコリと下げた頭を上げ、女性の顔を見た


瞬間。
時が、止まった気がした。



長い綺麗な黒髪は、昔みたいに高めに結われてはいないが。あの透き通るような肌も、吸い込まれそうになる瞳も、変わってはいない。


「夕月、さん…?」

「…一ノ瀬、くん…?」



声だって昔に比べて、落ち着いていて大人になっているけど。彼女自身の空間は変わらない。それが、嬉しい。


僕の名前を口にした彼女に、うん。と微笑みを浮かべて頷く。次の瞬間、夕月さんは唇を噛みしめて涙を流した。

ギュッと抱き締めた彼女を、もう離さない。




さあ、あの時から止まったままの二人の時間を、もう一度刻もうか。



『夕月さん、ファーストネームなんていうの?』

『香奈恵。』

『僕は、』

『知ってる。爽太、でしょう?』

『どうして知ってるの?』



それは、またいつか話す     よ。