Poison【短編】




きっと、どこかで幸せに暮らしているんだろう。そうじゃないと、僕が悲しい。


だって、


「(初恋、だから。)」



たった数週間、彼女と過ごす日々は僕の中でも酷く鮮明に残っている。

その思いは、僕の中からいつまでたっても消えてくれない。大学で彼女だって出来た。でも、長く続かないんだ。


――…理由は、僕が彼女を忘れられないから。



それから彼女はいない。何度か告白してくれた子はいたけど、結局は同じことになるだけだから、断ってきた。

そして、今。
僕は営業科の代表として、先方の会社に挨拶に向かっていた。


と。
後ろから子供がぶつかってきた衝撃によって、僕の持っていた書類の一枚が、器用に人の波を縫うように飛んでいく。



子供に走っちゃダメだよと笑顔で注意して、僕はすぐにその書類を追った。

そして、書類は綺麗な黒いパンプスを履く女性の足下に落ちたのだ。


「すみません…!」

「あ、いえ。どうぞ。」