一瞬、なにが起きたのか理解出来なかった。
…ほんと一瞬だったから、僕の頬に何か熱いものが触れたのは。
「(…ああ、これは、)」
夕月さんが、僕の頬にキスをしたんだ。
驚きで、その体勢のまま動けない僕と比べ、隣に座っていた気配はすぐに立ち上がったのが分かる。
ゆっくり、そちらを見上げると。夕月さんが高めに結われた髪を風に揺らしながら微笑む。
「ばいばい。」
「…また。」
今気付いたけど、遠くから昼休みの終わりを告げる予鈴が鳴り響いている。夕月さんは、別れを告げると、何故か
それはそれは、悲しそうに瞳を細めて笑ったんだ。
――あの時、どうしたのって聞けてれば。
あのキスの裏に、何が隠れてるのか考えていれば。
いつもは「またね」なのに「ばいばい」と言った真相を聞いていれば。
…今の僕と彼女の未来は、どうなっていたんだろうか。


