ゆっくりとした歩みで彼が怠惰に寄りかかる柵へと近寄ると、その瞳が妖しくギラリと光った。
「もう来るな、って、言わなかったっけ?」
「…記憶にない。」
「とぼけんなよ?」
ゆるく戒めるような口調に、眉根を寄せて見上げてみても彼の表情は変わらない。
暫く続いた重たい沈黙に支配された空間を絶ったのは、彼の盛大な溜め息。
切ない、なんて思いは私の自業自得だから口にはしない。だって彼は何度も私を拒絶している。
そして、確かに私は先日ここで彼に「もう来るな」と言われた。
でもそれはあの時にも「嫌だ」と断ったし、彼もそれ以上は何も言わなかった。だから、私はまたここに来たのに―――――…。
「俺はね、仕事なのお嬢さん。」
「らしいね。」
「君が望むものを、俺は与えられない。」
「…そんなん、」
そんなん、別にいらない。