「日記、かな。」
「日記?」
「そう、日記。自分の感じたこと素直にぶつけられるの、ここだけだから。」
そう言った夕月さんの瞳は、なんだか少し寂しそうだった。
だから。そんな夕月さんの瞳を見たから、僕は彼女を放っとけなくなったんだ。
「夕月さん。」
「何、一ノ瀬くん。」
「僕のこと、頼っていいよ。」
「…」
「ノートの代わりくらい、できると思う。」
―――彼女にしては珍しく、驚いた顔をして動きを止める。一ノ瀬くん、と呟いた彼女を見るなりこんな恥ずかしい言葉、平気で言っちゃった僕が一番恥ずかしいと思った。
夕月さんは、一度瞼を下ろし、次に目を開けると、とてもうれしそうな笑みを顔一杯に広げ
「ありがとう。」
それに、うん、と呟くことしかできなかった僕は、その無垢な夕月さんの笑顔に見惚れていた。
隣に座っていた夕月さんは、そんな僕の心情を知ってか知らずか、…そっと僕達の間に両手をつき身を乗り出す。


