「一ノ瀬くん、本が好きなの?」

「そうみたい。」

「そうみたい、って、可笑しな人。」

「…そうかな。」


あれから数週間、

お昼休み、僕と夕月さんは二人誰もいない屋上でなぜか隠れるように会話を交わしていた。


僕の手には愛読書の単行本が一冊。夕月さんの手には小さなノートが開かれている。



夕月さんは、くすくすと笑ってそのノートをパタンと閉じると、まっすぐに僕を見つめ瞳を細めた。


「ええ、そうよ。」


それは、とてもとても綺麗に、だがとてもとても艶やかに微笑んだのだ。



夕月さんは、やっぱり毒のような人である。簡単に人の心を浸食するのだから。

それに、その浸食スピードがゆっくり且つじわじわとしているもんだからたちが悪い。



素直に緊張し始める自分の体を誤魔化すように、僕は夕月さんが持つノートを指指して


「そのノート、何が書いてるの?」


僕がそう聞くと、夕月さんは一度自分の視線をノートへと下ろし、再び僕へ向け直す。