逃げたい、逃げられない。
愛されたい、愛されない。
この鎖の熱は、優しい毒だ。
「…ここは冷える。中に入ろう咲耶。」
「……、はい。」
今度は、抵抗することなく。その差し出された低体温を掴んだ。
それに宙さんは満足そうに口元に緩く弧を描く。淡い紅色の着物が、やはり今日は一段と重たい。
宙さんと会話を交わす日は、いつも着物が重たく胸が張り裂けそうになるんだ。気持ちを伝えることができない、情けない私はただのお飾り。
宙さんに愛されないなら、私はただの人形なんです宙さん。
…、こうやって抵抗する度に宙さんは何故かキスをする。嬉しいです、けど辛いです。
私の心は矛盾点ばかりである。
濃紺の着物を纏ったその姿に、何故か無償に泣きたくなった。
「宙、さん…。」
「…どうかした?」
「どうして、キスするんですか?」
私は溢れそうな熱いものを必死に堪え、問いかける。宙さんは優しく笑うと
「どうしてだろうねえ…。」
(そうとしか、答えてくれなかった。)
優しい鎖の熱は、まだ冷めてはくれない。