渾身の力を込め宙さんを睨み上げる私に、宙さんはいつも通り何も変わらない微笑みで
「それでいいよ。」
「っ、」
「咲耶が此処から逃げてしまったら、俺の役目が終わるじゃないか。」
「それなら、俺はいつまでもお前を此処に縛り付けるよ。」
…宙さんは、狡い。
きっと私の気持ちなんて全部見抜いてるくせに、こうやって縛り付けるんだ。
そんなことされなくても、私が逃げることなんて出来ないって分かってるくせに…。
「嫌い、嫌い、」
「知ってるよ。俺はお前を此処から逃がす気はないので、好きなだけ嫌ってくれ。」
「宙さん、なんて…」
「嫌い、だろう?」
ふわり、鼻の先に触れた黒髪がくすぐったい。これは誰の髪?
…ああ、宙さんの髪だ。
目の前にある綺麗な顔は誰の?
…ああ、宙さんの顔だ。
唇に重なる熱い熱は誰の熱?
…ああ、宙さんの熱だ。
「逃がさない。」
宙さん、好きです。
此処から逃げ出すことは出来ないにしても、
貴方に愛されるなら本望です。


