Poison【短編】




静かな場に、くつりと喉を転がしたような音を残していくもんだから、胸の奥が渦巻き苦しくてたまらなくなる。


ここ、…私の家は、創業何百年にもなる老舗旅館で。長女として生まれた私には、女将になるということが義務とされていて。それは鎖のように、私をここへと縛り付ける。



……宙さん、とは。
私が幼い頃から教育係のような立場を受け持っている若い男の人。

濃紺の着物を纏うその姿には、毎度、妖艶なまでの色気を感じる。

(男、なのにだ。)



少し長い前髪の間から時折ギラリとした瞳が私を見下ろすのだが…、おそらく私にとっての一番の鎖は彼自身。


宙さんの傍にいれば、私の心が壊れてしまう。アノ人は、毒が塗られた鎖。


捕まったら最後、もうココからも彼からも、逃れることは出来ないであろう。



「しつこい子だね、君も。」

「っ、」

「俺は早く入れと言わなかったか?」

「…い、や…、」


私の声は、途切れ震えながらもしっかりこの空間に響いた。