「吹聴しなくても噂くらいにはなっているんじゃないかな。まあ、みんな僕を志鶴に押し付けたがっているから、悪気のない噂だろうけど」

圭吾さんは近づいて来て、わたしの唇にサッとキスをした。

「拗ねていても可愛いね」


そんなコト言うなんてずるいわよ

わたしは真っ赤になって口ごもった。

「も、も…もう起きるの?」


「少し仕事を片付けてしまおうと思って。志鶴はもう少し寝ていていいよ」

「わたしも起きる。もう眠くないし」

「じゃ、母屋にお使いを頼んでいいかな?」

「朝食に要さんも来るのね?」

「ご明答。それから悟達をたたき起こすといいよ」


わたしは、顔を洗って着替えてから母屋に行った。


台所ではもうお手伝いさん達が働いている。

わたしが『おはようございます』と中に入って行くと、和子さんが振り向いた。


「志鶴様? お早いですね」

「朝食をもう一人追加して下さいって、圭吾さんが。要さんがお仕事明けでいらっしゃるそうなの」

「かしこまりました。お茶をお入れしましょうか?」

「ううん。これから悟くん達を起こすの」


和子さんは顔をしかめた。