「おんこ?」
ほとんど走るような速さで歩いていたおんこはその優しい、低い声に足を止める。
「お父様っ!!」
きらきらと顔を輝かせ、おんこは父親に抱きつく。
「よしよし。いつも学園を任せてしまって悪いね。私も一回おんこの学園に行きたいのだが」
おんこの父親は家にいない方のが多い。
その確かな腕を頼って依頼が各地から押し寄せるためだ。
そんな事情がわかっているおんこはぶんぶんと首を千切れそうなほど振る。
「お父様は家にいるときくらいゆっくりしてなきゃ駄目なんだからねっ!!」
「そうかい?では、せめて今日はおんこが帰ってくるまで家にいることにするよ」
「本当っ!?」
静かに父親の首が縦に動く。
ぱぁっと効果音が出るほどに明るくなったおんこの顔。
「だから、早く学園行ってきなさい」
「そうだったっ」
父親の登場に思わぬ時間を食ってしまった。
おんこは今度こそ玄関に向かって走る。
――現在時刻、午前6時50分

