「っぐ!!」
姉は母親の反撃により床に叩きつけられる。
その時を待ち望んでいたように妹が母親を狙い、抱き込むように腕を交差させた。
その爪はまるで獲物を貫く牙のよう。
姉の攻撃に気を取られて妹を注意しておらず、技が決まって油断しているところを狙ったこの攻撃。
決まると思われたその一瞬。
母親の瞳が妹を捕らえる。
その体は床につくことなく空に浮いていた。
「っ!!」
空に浮いた母親を射程圏に捕らえることが出来ない。
そして、妹はこのままの軌道で進めば姉に当たることを理解した。
妹は敢えてそのまま進み、爪を安全な長さへと調節する。
「リーニア。大丈夫?」
かろうじて姉のすぐ近くに着地して怪我の具合を見る。
「……大丈夫。このくらいは」
「そう。リーニア、……リーニア?」
妹が見ている前でリーニアの漆黒の髪が徐々に白く変貌していく。
黒に近い紫の瞳も人外であることを示すように紅へ。
どこまでも吸血鬼らしく、その姿は美しくも恐怖すら感じる。
――しかし。
「牙を無くした吸血鬼は滑稽ね。……姿だけは立派なのに。まるで張りぼてだわ」
吸血鬼の象徴たる牙。
それだけが、なかった。
どれほど強かろうが、速かろうが、姉妹が吸血鬼ではないと思い知らされる、事実。
人外ではないのか、人間ではないのに。

