――ビクっ
体が異常なまでに反応した。疲れていて気を抜いていたからか…
まったく気配を感じなかったのだ。
渚は静かに後ろを振り向いた。
綺麗な顔立ちの男。キリリとした顔は優しく、頭はポニーテールをしていた。
しかし渚はそんなところなど見ていなかった。彼女の目線は男の着物をとらえていた。
「浅葱色の羽織…」
スルリと出た自分の言葉が不思議でたまらなかった。
「はい。これは浅葱色ですけど…なにか?」
男は不思議そうな顔をした渚を不思議そうに見つめた。
京の町で自分達を知らない人などいないからだった。
「それにしても不思議な箱ですね。」
男はもう一度渚の持っているケータイを見た。光る箱など見たことがなかったからだ。
渚は男にケータイを差し出した。こんなものでよければと言うように。
渚は男の服装に気をとられ、ここが幕末であり、ケータイなど知らないで当たり前だと言うことを忘れてしまっていた。



