【花崎ナミside】


目が覚めると、あたしは保健室の白いベッドの上だった。

あれ?

あたし、女子トイレにいたんじゃなかったっけ。


便器に再度、頭を突っ込まれて、トイレの水が鼻に詰まったことは、覚えている。でもそこからの記憶がない。

「ナミ、気がついた?」


ゆり先生……。

あたし、どうやってここまで来たの?


「おう! 気がついたか」

あれ……塚田センセ。美術の塚田先生が白いカーテンから顔を出して、こっちを見ている。


「塚田センセ、どうしてココに……」

「花崎、お前、トイレでイジメにあっていただろう?今までにも、イジメを受けていたのか?」


塚田…バーコード頭が震えているよ。

若くして頭の毛が薄くなった塚田センセは「バーコード塚田」のあだ名をもつ。

生徒たちには「静かで扱いやすいオッサン」として認識されている。


ああ、頼りにならないんだよね、このセンセ。


「大丈夫です、あたし、帰ります」

ベッドから起き上がると立ちくらみがした。


まだ便器のにおいが、あたしの鼻の奥に残っていて、胸がムカムカする。


これが、キレイになる代償なんだろうか。


それなら、あたしは、やっぱり要らない。