「…王女様」
ヒロが騎士のように膝をつく。差し出された手に、お芝居みたく手を重ねる。
「『ローマの休日』の『アン王女』ね」
ゆり先生が満足そうに、あたしのヘアを横から整えながら言う。
「ナミ王女様……お宅までお送りいたします」
うやうやしく、ヒロはその気になって、映画のなかの男優みたく、あたしをエスコートした。
あたし、今日、はじめて自分にクラクラした。
あんなに糸みたく細く見えた目が。
アイラインとアイシャドウなるテクニックで、大きく美しく黒目が映えて見えるようになる。
これって……すごい!!!
感嘆するあたし。そのあたしに、その日、早くも、嫉妬の嵐が襲いかかるとは……。
保健室を出たところで、女子たちに囲まれてしまったのだ!!!
「ちょっと……来なさいよ」
エスコート役のヒロが青ざめる。
「ヒロ先生~、ちょっとおかりします~」
ヒロへの態度とあたしへの態度、違いすぎ。


