〜サヨナラの3年後〜



ポツ、ポツ、ポツ。



雨粒が傘に当たり、音を奏でる。





僕の大きな傘が視界を遮る。



せかせかと急いだ靴たちが、僕の前を通り過ぎていく。





雨の日は、君の事を思い出す。



雨が嫌いな君を…。





「明日は晴れるかなぁ?」



僕の傘の中で、よく君は呟いていたね。



「晴れるといいね」



そう答える度に、僕は君に気づかれないように苦笑いをしていたんだよ。





僕は雨が嫌いじゃない。



降り注ぐ水の中、君を独り占めできるから…。



憂鬱そうな横顔も…



雨音に負けないように、大きくなるその声も…



雨の日は、世界中で僕だけのもの。



だから、これ以上雨を嫌いにならないように、君を雨から守っていたんだよ。



僕の右肩が濡れていたこと…



僕だけ水たまりを踏んでいたこと…



きっと、君は気付いていなかったんだろうな…。





いつの間にか、約束の時間を過ぎていた。



早足に横切る靴たちが、途絶えることなく続いていく。



あの頃から、何年経っただろう…



もう、僕たちが恋人同士ではないことを、改めて実感する。





僕も…



君も…



あれから色々な経験をした…。





僕も…



君も…



あの頃から変わったのだろうか…。





時間にルーズなところは、あの頃のまんまだな。



あの頃と同じように、僕は苦笑いをする。





大きな傘を傾けると、遠くから手を振る君が現れる。



ここからでは見えないけど、手を振る君の左手の薬指には、結婚指輪がはめられているだろう。



僕も傘を軽く掲げて応える。



二人で入っても、濡れないくらい大きな傘を…。



傘を持つ自分の左手が視界に入る。



薬指には、君とお揃いの結婚指輪。



照れ笑いと共に、白い息が漏れる。



空から…



真っ白の幸せが降っていた。