最後くらいは笑顔でいたい。そう決意して、手でパタパタと

仰ぐしぐさをして涙を乾かした。

「ありがとう。ホントにありがとう。・・・・
 
 また会う日まで。さようなら。」

そう一気に話し、くるりと背を向けもう振り返らなかった。

後ろからは、振り返らなくてもわかる大家さんの鳴き声。

「行かんで・・・ずっどここさいて・・・・・。必ずまた

 かえって・・・・きんしゃい・・っっ。」

大家さんが私を痛いほど大切にしてきてくれたかが分った。

分かれば分かるほど、自分がしようとしている目的が

本当に正しいものなのか、何も考えられたくなる。

ただね・・大家さん・・・あたし決めたの。

「もう、ここには帰ってこない。」

そう口に出し勢いよく新幹線に乗り込んだ。

着いてからの宛先なんてなかった。

特に行く場所も決めていない。

とりあえず降りた駅で目の前に見えたビル。

ビルなら周りに無駄というほどたくさんあるのに

なぜかこのビルに引き付けられた。

きずけば中に足を踏み入れていた。

そう、この日からはじまった私の中の本番。

私がいままであきらめずにきたユメ。

新しい世界への階段の第一段目となる今。

のがさない。このチャンスを。

固めた決意に狂いはなく、

奥へ奥へと一歩一歩進んで行った。