どんな時も必ずこの部屋は私を迎え入れてくれた。

いつも同じ空間で私を待っていてくれる。

唯一裏切らない場所。

そんな思いで深いこの部屋を手放すのに

時間はかからなかった。

部屋の壁にあいている複数の穴。

私が自分自身の過去と未来を照らし合わせた時に

不安におちいった精神状態は

当時の自分にはあまりにも大きすぎるショックで

パニック障害を起こし何度も壁に身を叩きつけ

できた穴だ。

そのたびに、近所の部屋の人が迷惑そうに大家さんに

訴えていた。でも、大家さんは決して私を

責めなかった・・・。私の変わりに深く頭を下げる大家さんを

ただただ見つめることしかできなかった。

思い出しながら目いっぱいにためた涙が自分の手のひらを濡らした。

その手の中には部屋のカギ。

大家さんの元に行き、そっと何も言わずに差し出した。

私の差し出した手を首を振って受け入れなかった大家さん。

「それは、もっていき。あの部屋はいつでもあけとくから。

 いつでもそのカギもって帰ってこればええ。」

そういって笑顔で、でもどこか切ない瞳で私を見つめながら

カギに何かをつけてくれた。

「ふるさと」と書かれたお守り。