私は去年の今頃この学校に転校してきた。

前の学校でいじめられたわけでもない・・・。

ただ、私にはずっと追いかけている

夢がある・・。

その夢をかなえるために、友情もプライドも

全部捨ててたどり着いた場所。

私の名前は、鈴原 夏季(すずはら なつき)

出身は山形県だが、中1の後半に1人で

東京に越してきた。

お父さんもお母さんも私が小さいときに

亡くなってしまった。

兄弟もいない私は、小学4年生の時から

ずっと1人で暮らしていた。

家の事や、お金のことは、すべて

アパートの大家さんが面倒を見てくれた。

小6になったころ、大家さんに

東京に行きたい。夢をかなえたい。

そう本音を言った。

今思えば、何を言ってるのだろうと

大家さんも大分困ったと思う。

だが、反対はされなかった・・・。

自分のしたいことをすればいい。

それが大家さんの口癖だった。

ただ、引っ越すにつれて約束をした。

「1つ目、辛くなったらいつでも帰って

 来ること。2つ目、すぐに諦めて帰って

 来ないこと。」

そう、大家さんは言うと、ちょっと待ってて

とでも言うように、両方の手のひらを私に

向けた。

すると、自分の部屋から何かを抱えてきた。

茶色い封筒・・・貯金通帳・・・・。

「これで、なんとか東京まで行けんべ。」

茶色い封筒の中には、一万円札が数枚。

通帳の残金は、20万円。

そのとき、どれだけ大家さんに感謝したか、

今でも覚えている。

握りしめたこぶしにさらに力を込めて

涙ながらに、私から大家さんへの約束を言った。

「絶対に、叶えて見せるから・・。

 絶対に笑って見せるから・・。

 そしたら、いつか倍にして返してみせるから、

 だから・・・だからそれまで待ってて!!」

そう言い切ると、大家さんはゆっくりうなずき

微笑んでくれた。