その日の夜。

あたしは家に帰った。

それは、お父さんとお母さんに、

「婚約発表会、10月15日だって」

この事をを伝えるため。

そう言うと2人は、

「分かった」
「じゃあ、急いで衣装とか準備しなくちゃね!」

お父さんは静かに。

お母さんは興奮したようにそう言った。

・・・これで、もう。

隼斗の元へは戻れなくなってしまう。

・・・いや。

隼斗が記憶を失った時点で、それはもう不可能なんだ。

「うん、そうだね」

2人に笑いかけた。

・・・あたし、最近作り笑いばっかりだ。

心は悲しみで染まってるけど。

それを表に出しちゃ、みんなを苦しませてしまう。

だからあたしは常に、笑顔の仮面を張り付けていた。

あたしが我慢すればいいだけの話。

そうすれば、みんな心からの笑顔を見せてくれて。

平穏な日常がまた始まるんだ。

そう、これでいいの。

「孫の顔が早く見たいわ~」
「双葉っ!それは気が早いぞっ!」

夢見る少女のようなお母さんと、取り乱したお父さん。

・・・やっぱり、大好き。

貴方達を苦しませる事なんて、したくないから・・・。

「ふふっ。そうだよ、お母さん」

でも・・・。

“孫”かぁ・・・。

それはつまり、あたしと雅也の子供って事。

隼斗に対する想いは3か月前と全然変わってないのに。

今でも彼の事を愛しているのに。

―――そんな状態で、別の男の子供を産める?

そして心はまた、悲しみの色で染まっていった。