すると、
「・・・かあ、さん・・・?・・・兄貴・・・」
か細い声が聞こえた。
再び驚いた2人は、視線をあたしから隼斗に向けた。
「隼斗・・・?隼斗っ!」
「お前・・・目が覚めたのかっ!」
たちまち笑顔になる千歳さんと翔也さん。
それとは対照的に、あたしの目からは絶えず涙が溢れる。
隼斗が目覚めた。
隼斗が生きている。
素直に嬉しいよ。
・・・でも。
“・・・お前、誰?”
さっきのあの言葉が・・・脳内を支配して。
胸が苦しい。
「隼斗・・・」
千歳さんが、隼斗の手を握って泣いている。
「母さん・・・泣くなよ・・・」
久々に聞いた、隼斗の声。
久々に見た、隼斗の笑顔。
家族3人の光景は・・・凄く微笑ましくて。
・・・だけど。
今、1つだけ分かった事がある。
隼斗は、あたしの事を忘れている―――。
要するに、記憶喪失って事?
それも・・・あたしの事だけを。
だって、千歳さんと翔也さんの事は分かってるもん。
だから・・・、
忘れているのは、あたしの事だけ。
失くしたのは、桜井満奈との記憶だけ。

