そんなの嫌だ。
初めて本気で愛した女を。
俺以外の奴に嫁にやりたくない。
「相手、は・・・?」
震える唇でそう聞いた。
すると母さんは少し間を置いて、
「柳グループの御曹司、柳雅也よ」
と言った。
柳雅也・・・。
「次期社長なんですって」
次期社長・・・。
「それで、桜井仁菜さんの元許婚らしいわ」
仁菜ちゃんの元許婚!?
そいつと満奈が・・・婚約!?
絶対嫌だ。
俺はソファから立ち上がった。
「隼斗?」
母さんは不思議そうに俺を見上げた。
「満奈んとこ行ってくる」
そう告げて、俺は部屋から出ようとした。
しかし、
「待ちなさい」
静かで、でもどこか熱のこもった声。
俺の足を止めるには十分な声だった。
母さんが、俺を引き止めた。
「何だよ」
イライラして仕方ない。
今すぐにでも満奈を連れ戻したい。
アイツが俺以外の男の隣で笑ってる姿を想像するだけで、狂いそうになる。
「満奈ちゃんは、自分で決めたのよ。貴方に引きとめる権利はないわ」
その言葉は、どこかに強く刺さって。
目の前が真っ暗になった。
“隼斗!”
あの笑顔が。
“・・・んっ・・・”
あの声が。
柳雅也のモノになるなんて―――。

