あたし達はの目の前に、両手を広げた女の子が立っていた。

見覚えのある服、声・・・。

「杏ちゃん!?」

そう・・・。

大和杏樹ちゃんだった。

「満奈ちゃん達は何も悪くないよ!なのにこんな事しないで!」
「杏!戻って来て!」

観客席から、杏ちゃんのお母さんと思われる声がした。

でも、小さな背中は動こうとしない。

「どいてよチビ。邪魔」

まだちいさい杏ちゃんにまで暴言を吐く奴ら。

「嫌だ!満奈ちゃん達にもう卵なんか投げないで!」
「うるせぇんだよチビ!大人しくしてりゃあ黙って返したのに・・・」

そう言った男の人は、さっきよりも光ってるモノを出してきた。

「「きゃあーー!!」」
「杏!杏樹!」

カッターナイフを、杏ちゃんに向ける。

杏ちゃんは逃げない。

ただ、その肩は震えていた。

こんな小さな身体で、あたし達を守ろうとしてくれてる。

嬉しかった。

でも今は、そんな悠長な事を言ってる場合じゃない!

「死ねよ」

低い声が聞こえた。

その男はカッターナイフを持ったまま、こちらに向かって走って来た。

「杏樹ー!」

息が止まりそうだった。

思わず目を閉じた。

―――――グサッ

・・・。

嫌な沈黙が続いた。

「んだよ、てめぇ・・・」

そっと、目を開いた。


「小さな子まで殺そうとするなんて、あんたは人間失格よ」