- 涙の海 -


あぁ、久しぶりの開放感。
これでぐるりと泳ぎ回れる。

はしゃぎ回るボクをワタシは顔をくっつけてのぞきこんでいる。


あれ、ボクは泳ぎを止めた。

ワタシの目から涙が流れている。

「どうしたの」


心配するボクの声は届かない。

「くじら、知ってる?海の水と涙は、しょっぱさがいっしょなんだよ」


だからって、そんなに涙を流しちゃだめだよ。

「くじらはいいよね。水の中を自由に泳ぎ回れて。・・・私も海に戻りたい」


ワタシはきっと、涙でこの部屋を海にするつもり。

そんなワタシにボクは何もしてあげられない。


ガラス越しにただキスをするばかり。





   第一話 おわり