- よどんだ水 -
小さな窓のカーテンレールにボクはぶら下げられていた。
よどんだ水の中で息が苦しくて、尾っぽを振る元気もない。
ワタシはまだ帰ってこない。
「今日は金魚鉢、買ってくるからね」
ワタシの言うことは当てにならない。
昨日もおとといもそう言っていた。
部屋の中はもうすっかり暗くなって、外からの明かりで窓際ばかりがぼんやりと映し出されている。
ガチャリという音といっしょに一気に光が入り込んできた。
「ただいまぁ」
ワタシだ。
心なしか声に張りがない。
ワンルームの狭い部屋だけに、明かりをつけると否応もなくボクと目が合う。
「どうせ今日も忘れてきたんだろ」
悪態を付くボクの声がきこえたのか、ワタシは袋から金魚鉢を取り出した。
「くじら、金魚鉢買ってきたよ」
ワタシはテレビもつけずに丁寧に金魚鉢を洗い、やかんにあった水を入れると、そっとボクを流し込んだ。