しばらくして、トウヤが宝王子たちに近づいて来た。ミカエルの方に視線をやると、多勢の貴族らしき人たちに囲まれ、挨拶攻めに合っている。その隣にはラブラドールの姿があった。
「そう言えば、もう聞いたか?」
「何がですか?」
トウヤは宝王子に言いつつきょろりと辺りを見回すが、お目当ての人物が見つからなかったのかそのまま宝王子を見た。
「クラウディオのやつ、日本に行く気になったらしいぜ」
クラウディオ・ブリュガン。わずか二十二歳で公爵の座に就いた女性であるが、そのせいか男装している麗人だ。性格は冷淡であったり淡泊であったりする。悪い人ではない。
しかし、トウヤの言葉に宝王子はザーッと血の気が引いた。
「ほ、本当ですかソレ…?」
「?ああ」
マズイと言わんばかりに宝王子は大山と林を見る。二人も蒼い顔をして宝王子を窺っていた。
そう。クラウディオは「新川のタイプ、ストライク」なのである。
そんなことを知らないトウヤは不思議そうにしつつ、続けた。
「このままじゃ日本は勝てないからな。クラウディオを派遣するって決めてたんだ」
「なぜ日本は勝てないんですか?」
「一番の問題は人数差だな」
「じゃあ、どうしてクラウディオさんなんです?」
「フランスの秘宝『星鍵』が公爵じゃないと発動できないからだ」
フランスの四大公爵家に代々伝えられる「星鍵」の歴史は古い。ローマ帝国よりも古来にあったガリア・トルサルピナ建国時に降ってきた結晶(ホシ)である、と伝えられている。姿は鎖についたペンダント・トップのような形状だ。
「あれ?でも四大公爵って…他の方は?」
宝王子は資料を思い返しつつ、トウヤに尋ねる。帝が用意したフランスの資料には、四大公爵の内二名の名前が記載されていた。騎士団長のセルヴィー・ガルドルーダス公と近衛連隊長のサルヴァドール・シュトーレン公である。四大と言うからにはもう一人存在するはずだ。
