宝王子が着いたころには、そこには大きな喚声が響いていた。
屍は人形のように山となり、その中央では金属音が絶えず響いている。
その背後には、戦艦があった。
「あの馬鹿…!」
宝王子は苛つきながら中央に斬り込みを入れる。
ど真ん中におそらく新川はいると確信しながら。
逆立つ髪が見えると同時に、拳をふるう。
鈍い音がその場に響いた。
「いってー!王子、何すんだよ!!」
「何すんだ、だと!?テメェがそれを言うか!!」
騒ぎ立てた青年。
彼こそが新川斎である。
均整に鍛えられた筋肉と、それに見合うだけの身長と厚み。
手で握るのは、そびえる槍だ。
頭に手をやった彼に、宝王子がドスの効いた低い声で言う。
喧嘩腰のそれに、周囲の敵すらも手を止めてしまった。
「こんなときに突っ込みやがって…テメェの頭はトリ頭かってんだ!!」
胸倉を掴んでガクガク揺さぶる宝王子に、補佐官の泉が制止の声をかける。
しかしそれは新川のためのものではない。
泉は兄である柳と、主のためにしか心の琴線を動かさないのだ。
「将軍、ここでは些かまずいかと」
「あ、ああ…そうだな」
冷静な泉の言葉で我に返った宝王子は頷き、掴んでいた新川の上着から手を離した。
「道を拓くぞ!!」
シュラリと背後の腰部分にあった日本刀の二本目を抜刀する。
宝王子は普段単刀で戦うが、学んだ武術を使用するときのま双刀を使うのだ。
「行くぜ!『桃花千本桜』火炎舞!!」
「桃花千本桜」とは古来中国から渡り来た剣術と、日本の古舞術と交わって出来たとされる剣術である。
宝王子がクロスさせた刀から焔が沸き起こる。
この焔は、双刀の刃が摩擦して起こっている。
勿論、容易なことではない。
空気や湿度などで計算された、努力と経験の産物なのだ。
舞うかのように動く刃に灯った紅蓮は、確実に敵を仕留めていく。
それは炯々と照り、闇に浮かんでは消えた。
