大山と林がボソボソと小声で新川を叱る。新川はまるで、理不尽なお預けを喰らっている犬のような表情で、眼前に立つ三人を見ていた。それはもう、恨めしげに。
 当然だろう。
 用意された前菜、冷製と温製のテーブルには三種類の料理が用意されている。蟹のテリーヌ、ブルゴーニュ風のエスカルゴ、鴨のフォアグラソテーのいい匂いがこちらまで漂ってきている。
 魚類のテーブルには二種類の大皿が乗っている。アンコウの網焼きセージ風味と、ヒラメのバターソースだ。
 肉類は四種類。子羊のローストにんにく風味、牛フィレ肉の網焼きチコレ風味梨ソース、鴨の胸肉のロースト焼きパン風味ソース、リ・ド・ヴォーの薄切り網焼きが乗っている。
 野菜料理は二種類用意されている。温野菜の盛り合わせバターソースと、ポーチドエッグとグリーンアスパラガスのトリュフ添えが盛られている。
 デザートは二種類。リンゴのタルトと、ペパーミントのムースだ。
 それだけではない。
 葡萄酒用のテーブルには、多種多様のチーズが置かれている。
 目や鼻だけで充分認識可能な美味さである。涎が滴り落ち、ついつい手が伸びてしまうのも納得というものだ。
 ――そうしていると、流れていた音楽が止まった。
 バタンと豪勢な扉が執事らしき二人の男性の手によって開かれると、ざわついていた室内が静まり返る。靴音が甲高く響き、溜息が洩れ道が開かれた。
 長い黒髪をなびかせた女性が、二人の騎士を従えて姿を見せる。頭上には金細工の立派な王冠が乗り、肩には真紅のマントがかけられている。
 初めて目にする「女王」ミカエル・フランソワーズの姿であった。
 傍らに控えているトウヤとラブラドールも正装姿なのか、普段の隊服よりもさらに華美な装飾が付いている。髪型や帯びている剣も、いつもより気合が入っているようだ。
 感嘆の息が漏れるのも仕方のないことだ。それほどまでに、彼女らから放たれるオーラは魅力的であった。
 ミカエルが演壇に立つと、パッと照明(ライト)が落とされる。彼女はそんな中スッと赤ワインを取り、手を掲げた。
「我らの勝利と永久(とわ)なる平和を願って」
「乾杯(ア・ヴォトゥル・サンテ)!!」
 音頭に合わせて、宝王子たちも手を挙げた。