血が滴り落ちる。だが、その眼はすでに次の獲物へ向けられていた。突っ込んでくる男が放つ槍を、火花が散るような勢いで受ける。そのとき一瞬驚いた男を、そのまま横殴りした。次。右から太刀を持つ男が来る。血刀をそのまま向け、太刀を止める。馬がわななくと、刃はあるべき鞘、肉体へと入っていた。
激戦区だった。血煙が舞い、喚声と悲鳴が響く。その中にいて宝王子は、奇妙な快感を感じていた。声も耳に入らず、血の赤も濁って見える。思考が透明になり、身体が軽くなる。軍人ならば覚えのある感覚だろう。「生きている」と実感するときは、本能的な快楽を与える。
だが、そればかりを感じてもいられない。敵が潰走を始めたのだ。それを見た宝王子は、帝と聖徳に通信を繋ぐ。そこで発された帝の命令は、予想外なものだった。
「退却しろ」
ここまで攻めて、しかも圧倒的に士気も有利なのに退く?宝王子は敵の後ろ姿を目にして歯噛みする。
「命令だ、退け」
「…了解」
そこまで言うのだ、何かあるのだろう。宝王子は自分の考えより、帝への信頼を選んだ。軍を退きはじめる。馬が屍の積まれた中を、縫うようにして走っていく。城門は近い。
