一方、新川は林と行動を共にしていた。宝王子の部隊には、彼女の副官がいる。心配はない。
 新川は得意の槍を振り回して、味方を鼓舞する。その勢いは、逆に敵を圧倒していく。
 彼は水軍の長だ。そのため、宝王子や大山のように携帯できる武器を使用しない。折れれば最期だ。
 それを知っているのか、ドイツ軍の攻撃は止まない。そして、それを新川は逃げるでもなく迎え撃っている。軍人としてのプライドだろう。
 ドイツ軍はすでに潰滅寸前まで崩れてきていた。そこで、ようやく林が行動を開始する。「漆黒」部隊による呪術攻撃が始まったのだ。辺りを飛び交う炎や水の式神に、日本軍はさらに調子づく。
 それに焦れたのは、ドイツのグウェンダルだった。
「日本がここまでやるとは予想外だった…!!」
 主力の「疾風」・「雷迅」は抑えていても、ほかの二部隊が活発な動きを展開している。失策を認めざるを得ない。
 そのとき、林の計略が成功。大量の水蒸気が吹きおろし、水滴の膜を張った。
 ドイツ軍に衝撃が、日本軍に喜びが走る。
その勢いに乗って計略を終えた林が本格的に攻撃を開始する。呪符や式神を使用した、特殊な攻撃が展開される。それにドイツ軍はじりじりと押されていった。
「貰った!!」
後方を固めていた軍大将の首を狙って、紙の刃が向けられる。
しかし。
「あーあ、見てらんね」
その間に、人影が割って入った。林は慌てて攻撃を反らそうとするが、風に乗ったそれは難しかった。
「危ない!!」
敵かどうかも解らない人物に、林は叫ぶ。一般人だったら、償いようがない。
人影は青年のようだった。青年は紙を見て、にやりと笑む。
「反転魔法陣(ターニングサークル)」
ヒュンッと風が凪ぐ。それと共に、向かっていた紙が何かに当たったかのように反転し、林達のほうに勢いそのまま向かって来た。
「え…っ!?」
「どけ林、邪魔だ!!」
何が起きたのか解らない林に、新川が槍を片手に迎撃する。刃のような力があったとしても紙は所詮紙。新川の怪力には敵うはずがない。
撃ち落とした紙を見た後、二人は青年を見遣る。相変わらず笑んだままだ。