「仁奈ー、そろそろ行こ!」

「…え、あー…うん。」



梓の急かす声に弾けるよう顔を上げて、曖昧に濁した返事を返す。

モヤモヤと霧がかったような胸の不安定さは、きっと先程の泉くんとの電話のせい。



梓に遅れないよう、走ってその背中に駆け寄るがやはり頭を独占するのは大好きな彼。


ああ、もう、どうしよう。




――――数分前



本日最後の講義が終わり、身支度をさっさと済ませていると。マナーモードにしていた携帯がポケットの中で振動し始めた。


メールかと思いゆったりとした動作で取り出してみると、それは着信の文字を示していて。



相手を確認せずに慌てて通話ボタンを押した。




「も、しもし…!」

“…何焦ってるの。”

「え、あ、…泉くん?」

“そうだけど。まさか仁奈、俺の携番登録してないわけ?”

「してるよ!ちょっと、確認してなかったから…」



まさかの泉くんからの電話に、胸はばくばくと暴れ狂いだす。