今、私は酷く憤慨している。理由は勿論彼氏の泉くんである。

ソファーに座り何事もなかったように素知らぬ顔で本の世界に入り込んでいる後ろ姿を、私はキッチンから恨めしげに見つめていた。


コーヒーの香ばしい香りがリビングに流れた頃、泉くんはゆるりと振り返り。



「俺も、コーヒー。」

「……、」


ふんだ!私は今、怒っているんだもん。泉くんが謝るまで絶対コーヒーなんか淹れてあげない……!



なんて。

小心者で泉くんが大好きな私は、そんなに薄情な人間にはなりきれない。


琥珀色が揺れるマグカップを泉くんに差し出せば、緩く微笑を浮かべた顔が私へと持ち上げられる。上目具合がヤバい…!


格好良すぎる泉くんから逃げるように視線を逸らし、私はキッチンへと逃げ込んだ。





大体、私は怒ってるんだった。ドキドキなんてしちゃ駄目じゃんか自分。


―――――私の怒り?の原因は、ほんの十数分前のこと。