「あ、仁奈。」
キッチンへと向かう後ろ姿を見つめていれば、泉くんは緩やかな動作で私へ振り返る。
それに、何?と首を傾げて見せる私を見るなり何故か小さく吹き出す泉くんにきょとん。
と。
「忠犬。」
ぼそり、呟いた泉くんに私はぽかんと呆け顔を浮かべてしまう。いきなり、酷くない?
少しムスッと口を尖らせて拗ねる私に泉くんはくすくすと笑いながら近寄ると。
優しく口元と目元を緩め私の髪に自分の長い指を通すと、愛おしげな声で囁く。
「俺だけに懐いて離れないでよ?」
゙You are a thoroughly sly person.゙
貴方はとことん狡い人。
「泉くん、」
「ん?」
「泉くんも、私だけ見ててよ。」
「うん。」
当たり前だろ、馬鹿。