背後に大きな気配を感じた――瞬間。

私の体は後ろから回された腕に抱き寄せられる。後頭部がとん、と軽く当たったのは身長差から考えて多分泉くんの胸板。


私の脇腹の辺りから前に回された腕は、お腹の前で重ねられている。

肩に感じる重み、直に首筋にかかる熱い吐息はすべて泉くんのもの。



「泣いてるじゃん。」

「っ…、泉くんの意地悪…！」



甘い響きを持ったその声が、先ほどとは打って変わってあまりにも優しいから。今度こそ瞳から熱い雫がこぼれ落ちた。

回された腕を掴むように自分の手をそれに添える。


泉くんは悪趣味。こんな風に意地悪を言って、私が泣いたところで優しくする。これは今日だけあったことじゃない。パターンは違えど何度もある。

酷い人。そうは思うけど、嫌いになれない。なれるわけがない。


だって、どんなに意地悪されてもやっぱり泉くんが大好きなんだ。