梓は一呼吸置いて、高飛車先輩と何かあったの?と優しい声色で訊ねてきた。

何もないと言おうとした嘘は、やはり簡単に見抜かれてしまう。



「……泉くんに、私は、相応しくないのかなあ…。」

“は?”

「私、泉くんの隣にいてもいいのかな…。」

“ちょっと待、”


と。

電話の向こうから梓を呼ぶ声が微かに聞こえた。私は舌打ちする梓に明日は行くから、となるべく明るめの声で言った。

ごめん、夜お邪魔させてと言った梓に了承を告げて私は電話を切った。





私が携帯を耳から離し、電話を切ろうとした瞬間に。梓がぼそり、「相原ブッ殺す」なんて物騒な台詞を吐いていたことを私が知る由もない。



――質素なシングルベッドで寝返りをうてば、ギギっと悲しくベッドが軋み鳴く音が響く。

昨日のことも含め、今はすべて忘れたいと私はシーツを頭までかぶりきつく瞼を閉じた。


そして、じきに私を襲ってくる睡魔に逆らうことなく私は意識を手放したのだ。