その場から、動けない。ただただ俯いて見つめるのは足の爪先。
膝の上で握る拳は強く握りすぎて、少し爪が食い込んでいるような痛みがしている。
暫くして、バタンという閉塞音が遠くから聞こえて。体はつなぎ止められていた鎖が切れたようにフローリングの床を蹴っていた。
――――…どうしよう。
足を止めた玄関。見下ろす視界に、泉くんの履いていた靴は…ない。
本当に帰ってしまったようだ。
瞬間的に、私はその場にへたり込む。涙腺はあっという間に崩壊して、フローリングに小さな水溜まりを製造する。
呆れられてしまったかもしれない…。
゙かも゙なんて、ただの私の理想論だ。おそらく呆れられてしまった。
大丈夫、なんて嘘。
ほんとは泉くんが傍からいなくなるかもって考えただけで不安で怖くて、押し潰されそうになる。
(ねえ、好きなの。)
゙It becomes a disagree able woman rapidly.゙
どんどん嫌な女になる。
「ごめん」って、言えてれば貴方は傍にいてくれた?