即席のパスワード




……そう、泉くんの先輩、植村さんだ。

通話を始めてまだ5分程度だけどそわそわして仕方がない。落ち着きのない大人である。


「…ああ、あの本…。いや、悪いですから。」


…どうやら、今は何かの本の話をしているらしい。時々漏れて聞こえる植村さんの声がやけに大きく聞こえる。



「あ、はい。じゃあお願いします。」

通話を終えたのか。
泉くんは携帯をガラステーブルの上に置いた。


チラリ、その横顔を盗み見ながら「終わったの?」と問いかける私を横目で見下ろす泉くん。

うん、と。いつも通り、シンプルな返事が返ってくる。これもいつもなら何も思わないけど、今はこの冷たさが不安で仕様がない。




「……なんて?」


声のボリュームを落とした私の声はか細くて、泉くんまで届いてないかもと思ったが。その心配はなく、泉くんはマグカップを口に運びながら。



「俺が探してた作家の本、先輩が見つけたから譲ってくれるらしい。」