彼は一言だけそう呟くと、単行本へと視線を戻してしまった。いつの間にか浅く腰かけていたはずのソファには深く腰かけ足を組み、思いっきり読書タイムだ。
さっきまでの臨時家庭教師の姿は何処へ…?
泉くんは、褒めたりするってことができないのかな。家庭教師なら絶対に必要な要素だと思う。あ、でも泉くん家庭教師じゃない。いやでも褒めるって大切だよ。うん。
――…読書タイムに入った以上、褒めてもらうことはもう期待できない。
諦めた私は一人黙々と数式に向き合い、やっと全部の問題が解け課題を終えた頃には、勉強を始めて3時間も経っていた。
「(頑張りすぎた…。)」
折角の泉くんとのお家デートをなんと勿体なく過ごしてしまったんだ。
私と泉くんは、基本泉くんがインドア派だからデートは大体どちらかの部屋でお家デートになる。
とは言っても、今日もだけど大体は私の部屋。アパートで一人暮らしだし、親がいるわけじゃないから別にいいんだけど。たまには泉くんのお部屋に行きたい。


