即席のパスワード




さっきまで頭の中で渦巻いていたものがパッと消滅すれば、今度は体全体に甘い痺れが走る。

ああ、これって…。


「…梓、」

「んー?なに?」



私は一度、絡み合う彼との視線の糸を解き、上品にマフィンを口に運ぶ梓を見る。


「…つい、この前会ったばかりの人…笑顔が、すごくね、綺麗なの。」

「……え、」

「相原、くん、が…気になるのって、やっぱり早すぎる?」



梓は大きな瞳を見開ききょとんと動きを止めた。オロオロとする私をまっすぐに見つめた梓は、次の瞬間には瞳を細め。


「…いいんじゃない?゙相原なら゙。」



と。
口元に綺麗な弧を描く。私は、梓に謝罪を告げると自分が頼んだアイスココアとショートケーキのお金を渡し店を後にする。


「…゙あの男゙、やっぱ腹立つ。」



……そう、梓が走り去る私の背中に向かって呟いたことを私は知らない。