だって、私を見下ろしていたその人は本当に綺麗だったんだもん。
シンプルフレームの眼鏡をかけ、少し長めの前髪の下に隠れる顔は一言で言って端正。
「…大丈夫?」
「あ、はい、大丈夫…ですかね?」
私が言葉に詰まり詰まり返事を返せば、男の人は哀れむような視線を私に向ける。痛い。
そして、もしかしてと呟き
「……迷子?」
はい。その通りです。
こくりと頷く私を見て、その男の人は有り得ないと言わんばかりに眉を寄せた。
「…携帯、とかないの。」
「家に忘れまして…、」
「あんた馬鹿だね。」
…あれ今、馬鹿って…?鼻で笑った音と混じり暴言が聞こえたような気がするんだけど気のせいかな、気のせいだよね。
男の人は自身のブレザーのポケットから二つ折りのそれを取り出すと、誰かに電話をかけ始める。その動きをぼーっと眺めていれば、
「…ああ、三上か。お前今どこいんの。」
「!」
三上、とは梓の名字である。